「人間の脳」をモデルとして人工知能を設計しようと考えるのは、現時点で、決して、間違えではないと思います。わたしも、現在、ある意味、同様の立場をとっています。しかしながら、それだけで「技術的特異点」(Technological Singularity)を引き起こすような、全人類の知恵に匹敵するような、人間の知性を超えるような「超知能」ができるのでしょうか。すなわち、もう手を加える必要の全くない最終的な「人工知能】ができるのでしょうか?…。わたしはそう思いません。「生物界」全体をモデルとする必要があると考えています。
「生物界」を大雑把に空間的に見ると、植物と動物がいます。植物が太陽のエネルギーを物質に閉じ込め、動物や人間がその閉じ込められたエネルギーを使って、脳を機能させます。遠くから見ると、「生物界」は太陽エネルギーで動いている知能システムと見ることもできると思いませんか。このようなシステムとしての知能を設計することが必要と思います。これは、クラウドを設計するときに、電気の供給源である発電所を一緒に設計することと似ています。事実、クラウド運用企業は発電所の位置関係からデータセンターの場所を決めているようです。発電所を考慮し、電気にかかるコストを考慮しなければクラウドは成り立たないのではないでしょうか。
次に、「生物界」を時間的に見てみましょう。通常、「生物界」は、単純な構造の生物から進化してきたとされています。進化の過程で、脳は、「短期記憶」「エピソード記憶」「意味記憶」「言語能力」等を順次獲得してきました。この事実を見て、人間の脳が知能・知性の最終形であると、だれが断言できるのでしょうか。もし仮に、人間の知性を超えた「超知能」を目標とするのであれば、生物の進化のようなメカニズムを考慮しなければならないのは、当然ではないでしょうか。人間の脳の機能にはない新しい機能を持った人工知能があっても何の不思議もないと思います。